5/23/2010

中井英夫 - わが眼のうた (われはつねに左眼をにくみぬ)

左眼のうた



いつか恥づかしさに

その眼をつぶしたならば。

―― 彼は語るであらう

むかしのわたしの

卑怯と陰険と猜疑とを

さうしてさう教へこまれて

あげく一生の光を閉ぢた

彼の物語を語るであらう

その眼をつぶされたままにつぶりつつ



右眼のうた



左につりあげれば

へうきんなわらひをし

右によせれば深い憂欝を語る

ときどき花の雫のやうな

それがわらふその眼であつた

人にあこがれ人にあるものをいつさいに

憧憬でもない思慕でもない

私を愛してくれぬかといふ

夢をみるのはこの眼であらうよ

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